「遠州」の特徴①-総論

遠州正風の花形と特徴

遠州の生花(古典生花)は、円相と、天・地・人の理想をもとに「曲・質・時」の内容をととのえて、自然の理想美を求めてきました。

正風遠州流の生花、正しくいうと、遠州流正風挿花、又は遠州流挿花正風体の基本は「正風の花のかたちはなべてみな一円相に納るるなりけり」という歌にも示されているように、「一円相」の理念によって形づくられています。

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松と桜の三重いけ

円相というのは、万物のもとや、はじめを意味する「本体」のことであって、角に対する丸という意味だけの円ではありません。「不円不方(円ならず方ならず)」といわれるように丸や角(方)を超えたものとして認識されます。ちょうどそれは、花卉草木に置く白露のようなもので、それ自身は無色透明ですが、花卉草木に宿ったときにはじめてそのものの色に染められるのです。この白露のように虚空そのものでありながら、いっさいのもとになるのが「本体」なのです。またそれは、存在するもの皆包むものとして「大有」ともいわれます。清浄透明の真如一乗の世界が、遠州流の円相の理念の根源をなしているのです。

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水仙一色

上記画像は「水仙三ヶ条」といい、季節の移ろいとともに、自然の水仙の姿が変化するのに合わせて花もいける。曲線を生かした理想の姿を描き出した。花器は香炉形。

 

いっさいの形を超えた「空」の円相は輪廻や循環などを契機にして「一円相」に関連していきます。つまりそれは、宇宙的リズムとしてはたらき、春から夏、夏から秋、秋から冬、そしてまた冬から春とひとめぐりします。ここではじめて「一」という形が出てきます。「空」から「一」へすすみ、「無」の円相から「一」の円相に発展するのです。

「円相」は「空」の円相の場から天地自然のリズムにを受け継ぎ、それを花の形おいて表現する場でもあります。

正風遠州流の生花の本質を形づくる一円相の理念は、単に仏教にみられるばかりでなく、西洋哲学や中国の易経・儒教思想の中にも流れている考え方です。たとえば易経では、「元享利貞」ということばがあります。これは、春夏秋冬の順序で時間がたえずぐるぐるまわって元にもどり、たえず円相を描くということを意味します。これをみてもわかるように、すべて自然の摂理か発した考え方で、非常に普遍的な発想でもあるわけです。

この一円相の考え方は、室町時代ころからいろいろな芸道に深く入り込んでいますが、その頃起こったいけばなもその例外ではなく、立花などにもみられるように、早くから円相に基づいた造型がくりひろげられてきたのです。けれども遠州の花道において、特にこの考え方が強くおし出され、初世米一馬がこれを完成したといえるでしょう。さらに先代の六世米一馬が集大成にこれをまとめたのです。

初世貞松斎米一馬の挿花図(江戸時代文化文政期ころ)

遠州では、生花を「しょうか」と呼び、天の枝を「真」、人の枝を「行」、地の枝を「留」と名づけている。花体(花型)はこの真、行、留を骨子にして形づくられるが、さらに必要な枝が加わって、役枝の数、つまり「段矩」が発展、いろいろな花体が展開される。

真(天)、行(人)、留(地)の三枝に真添(日)肩(月)内胴(星)、小隅(辰)の四枝を加えた七本の役枝による構成を七段の花体と言い、さらに外胴(乾)、留真(坤)の二枝を加えた九本の役枝による構成を九段の花体と言う。遠州では、この七段と九段の花体を基本花型として、花型修得の第一課にすえている。

なお、真(天)と留(地)だけで溝成される花が二段の花体、真(天)、行(人)、留(地)の三本だけで構成される花が三段の花体、真、行、留に真添(日)と肩(月)を加えて構成される花が五段の花体である。段拒はさらに十一段、十三段、十五段のように発展する。

役枝はすべて花器(寸度)の寸法の二倍を直径とする円(円相)を基準にしてきめられる。寸度の寸法の二倍を直径とする円を花器の上に想定したとき、真は弧を描いて立ち伸び、先端が円を突き抜ける。真添と肩はそれぞれ真に沿って前と後ろに働く。行は真の湾曲する側の前隅へ、留は行とは反対側の前隅に振り出されて、それぞれ円内におさまる。小隅は行の側の後ろ、内胴は留の側の後ろ隅に振り込まれて、それぞれ円内におさまる。

生花の花体は、流し枝の数や形態上の変化によって真、行、草の三態に分けられる。真の花体は正格花矩とも言い、真を除くすべての花枝が円の内におさまる形を言う。行の花体は変格花矩とも言い、真流し、真添流し、肩流し、内胴流し、行流し、留流しなどのように、真を除く役枝の一つが曲を描いて円の外にはみ出す形を言う。草の花体は破格花矩とも言い、複数の役枝が円外にはみ出して働く形を言う。補天格、助他格、富士流し、観世流しなどの曲いけや掛けいけ、釣りいけなども草の花体となる。

また、本勝手(右勝手)、右の花と逆勝手(左勝手)、左の花の別があり、豊かな曲線美による流麗で派手やかな花風が、遠州の生花を著しく待徴づける。

 
正格花矩の花体(模式図)
左:二段の花体(陰陽生け)
中:三段の花体(花体の三大)
右:九段の花体

━━━読み方━━━
真(天)─しん  行(人)─ぎょう  留(地)─とめ
真添(日)─しんぞえ(じつ) 肩(月)─かた(げつ) 
内胴(星)─うちどう(せい)  小隅(辰)─こすみ(しん) 
外胴(乾)─そとどう(けん)  留真(坤)─とめしん(こん) 
寸度─ずんど  正格花矩─せいかくかく 変格花矩─へんかくかく
破格花矩─はかくかく 補天格─ほてんかく
助他格─じょたかく 観世流し─かんぜながし
段矩─だんく