「遠州」の花形④-節楽花

現在、植物の栽培技術の急速な発達に伴い、季節感をなくした草がお花屋さんの店先を賑わせています。 従来周年ものと分類されていた草木以外に、1年中出回っている花が多くなり、季節感も喪失してしまいました。節楽花は、 いけばな本来の姿に立ち戻り、歳時暦、特に二十四節気と密接関係を保ち、節気を楽しむ花として位置づけられます。

移り変わる四季を感じる

伝統的ないけばなの自然と共に生活する考え方は今を生きる上で最も重要な事であり、少なくなったとはいえ日本の移り変わる四季は生命の大切さを感じ、生きる事への偉大な力を感じるものであります。自由で豊な発想からなる植物の新しい美や心の発見も大切ですが、広く多くの花を愛する人達に親しみやすく、自然を感じ、その移りゆく姿に感動を与える花なのです。

歳時とは、文字どおり年と時、一年中の折々の自然・人事・諸事全般を指します。その節目節日が節句であり、その間あいだに節気があります。二十四節気は一年を12等分したもので、個々の名称は簡潔で美しい季節の言葉の数々です。これは中国から伝わった暦の一種で、古代の天文学に、基づいてつくられたものですが、四季折々の時候、天文、地理、動植物の様子が的確に捉えられています。わが国にも早くから取り入れられ、日々の暮らしが四季の移ろいに最も密接に結びついていた時代には、広く愛されたものでもあります。

四季の草木の自然のありようを、出生を生かしながら一瓶上にあらわそうと試みたいけばなは、その誕生当初から歳時暦と共に発展してきたと言って過言ではないでしょう。それは、伝書を繙けば必ず歳時と行事の花の秘伝がみられることでも明らかです。

 

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新緑の美しいイタヤカエデでは、これから新芽が伸び緑が増す頃、水辺にはかきつばたの花が開きます。上・中・下段にイタヤカエデを配しながら中段の空間を意識し、そのなかにかきつばたを配しています。花一輪を生かしながら季節の水辺を感じさせます。(5月21日・小満)

 

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上、下段に分けた作品で、下段は複合として、椿の葉となでしこで構成しています。ここではフトイを季の花として扱い、夏の深まり繁りを増すフトイのイメージを大切にしています。梅雨時の梅や風で折れた風情も表しています。(6月中・大暑)

 

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上・中・下段に配された花材で構成しています。夏の花、ひまわりを季節の花として捉えています。下段にあせびをマッチ状に配し、上段のひまわりを印象づけます。中段にはアメリカシャガを使って作品の強弱の変化をつけています。(7月中・処暑)